「ドイツの環境問題対策は日本でも通用するのか?」
W040318  藤野恭平
1. 序 論

近頃日本でも環境問題という言葉をよく聞くようになった。しかし、環境先進国といわれるドイツや北欧諸国などに比べると、まだまだ環境に対する意識は低く、見習う点は多い。だが、最もよい例として紹介されるドイツの環境対策は、果たして本当に有効なものなのであろうか?また、有効なものだという対策には具体的にどのようなものがあるのだろうか?案外知っているようでよくわからないのではないか?そこでドイツの対策を見ていき、ドイツで、また日本で実行してみて有効なのかどうかを調べてみたい。

この問題については個人的には今のところは有効だと考える。ドイツの対策は以前から多少は知っていたが、確かに理にかなっていると思う。そして今回細かな対策まで見ていき、それが有効かどうか考えていきたい。

これまでこの分野の研究は多く行われている。ドイツの環境政策の細かなものについては2の調査方法のところで挙げるが、その細かなものはほとんどが有効であるという結論が多い。しかしこれは日本人がそのように考えているだけであり、ドイツ人が必ずしもそのように考えているかどうかはわからない。そこでドイツに詳しい人物に直接話を聞き、より詳しく調べてみたい。


2. 調査方法その1 〜教授へのアンケート〜

本来ならドイツ人にアンケートを取りたいが、知り合いにそのような人物はいない。現地に足を運んでのフィールドワークも不可能なので、日本にいるドイツに詳しい人物を探してインタビュー、アンケートをとることにした。ドイツに詳しい人物なら細かな政策やその有効性にも詳しいはずである。探した結果、龍谷大学社会学部にドイツ専門の教授がいたのでインタビューをとることにした。そのインタビューの内容はドイツで行われている環境政策を5つ挙げたうえで、

@ 自分が調べたドイツの政策(以下参照)は本当に有効か
A それを日本で行ったら効果はあるか
B 実際日本で実行できるのか

という3つについて質問をしてみた。政策は、細かなものも挙げればきりがないぐらい多かったので、重要そうなものに絞って聞いてみた。質問した内容は以下のとおり。

A) 何回も同じものを利用する「リユース方式 」は有効か
B) 生ごみを焼却するのではなく、たい肥化するのは有効か
C) 日本でも聞くようになった「パークアンドライド 方式」や自転車利用の促進は有効か
D) 太陽発電、風力発電などの再生可能エネルギー の利用は有効か
E) 環境に配慮し、石や木など自然にある素材を使うことは有効か

◎結果予想

@について
A)、B)、については再利用することは資源の節約になるので有効と考える。D)も化石燃料などに替わるものなどで有効と考える。C)については身近にできるので特に有効と考える。E)については一度建てた家をそう簡単にかえることができないので、どちらともいえないと考える。

Aについて
ドイツで有効とされているものは、今現在世界で画期的なものとされているので、@とほぼ同様の結果が出ると考える。

Bについて
Aの結果がどうでるかわからないが、実行するには多大な労力と費用がいりどれもなかなか難しいので、どちらともいえないかできないのどちらか否定的な結果が出ると考える。


3、アンケート結果(その1)


@ドイツ A日本 B実際できるか?
A) リユース方式 どちらともいえない
B) たい肥化 どちらともいえない
C) パークアンドライド ある程度できる
D) 再生可能エネルギー どちらともいえない
E)自然素材 どちらともいえない

◎→非常に有効 ○→有効 △→どちらともいえない ×→有効でない
Bは、できる、ある程度はできる、どちらともいえない、できないのうちで回答

@ について
非常に有効、有効の違いがあるがこれらの政策は、ドイツでは有効なものとされているようである。E)については予想に反して非常に有効という答えが返ってきた。たしかに一度建てた家をそう簡単にかえることはできないのだが、これから建てる家などに関しては石や木を使うのは非常に有効だという答えだった。

A について
ドイツで有効とされているものは、日本でも実施されれば間違いなく有効だろうという回答だった。特にC)の項目のパークアンドライド方式に関してはこちらの予想どおりの回答だった。やはりA)やB)の項目のように個人ですぐにできないものよりもすぐにできるパークアンドライド方式は有効だということだった。ただし、駅周辺に駐車場を設けたりとまだまだ課題は多いだろうとも思うが。

Bについて
これは、どちらともいえない、できないという否定的な回答がほとんどだった。Aでは日本で行われたら有効だという結果だったが、それをいざ実行するとなると、できるかどうかは難しいようであり、こちらが予想したとおりだった。そしてそれには日本人の考え方に問題があることが関係しているという回答だった。日本人はどうしても自分のことだけを考えてしまいがちで、社会全体のことを考えることがなかなかできないようである。


4、調査方法その2 〜大学生へのアンケート〜

このようにドイツに詳しい人物に聞いてみたところ、ドイツでも日本でも有効だろうが、日本人はどうしても自分のことだけを考えてしまいがちで実際行うとなるとなかなか難しいということだった。たしかに難しいのかもしれない。しかし、一般人はどのように思っているのかはわからない。そこでさらにアンケートをとってみることにした。対象は大学生にすることにし、龍谷大学の男女それぞれ4人ずつ合計8人に行った。大学生にした理由はこれからの時代を担っていくことになる世代だから中高年にアンケートをとるよりも考えも多種多様でおもしろい結果が得られると考えたからである。男女差を作ったのも同様の理由である。質問は上記の教授に行ったアンケートと同様にA)〜E)の政策を挙げたうえで、それに対して@自分でそれをやってみたいかA日本で実行できると思うかという2つについて質問してみた。結果予想は、教授が言うとおりならAではC)の項目以外は否定的な回答が出ると思われる。結果は次のとおりになった。


5、アンケート結果(その2)


@自分でやってみたいか? A日本でできるか?
× × × ×
A) リユース方式 3 1 0 2 2 0 3 0 1 3 0 1
B) たい肥化 3 1 0 4 0 0 3 1 0 4 0 0
C) パークアンドライド 3 1 0 3 1 0 1 2 1 2 1 1
D) 再生可能エネルギー 4 0 0 4 0 0 3 1 0 3 1 0
E)自然素材 3 1 0 1 1 2 2 2 0 1 2 1

○→できる △→どちらともいえない ×→できない

@について
A)〜D)については男女ともやってみたいという答えが多かった。特にD)に関しては全員やってみたいという回答が得られたのはおもしろい。やはり大学生も環境問題について関心はあるようである。しかしE)に関して女性は否定的な答えのほうが多かった。まだ日本ではあまりみかけないことや、自然素材を使うよりもデザイン等、言ってみれば見た目を重視しているようである。

Aについて
@では個人的にはやってみたいという回答が多かったが、こちらは回答がばらけている。A)についてはできるという人が多いができないという人もいた。できない理由としては、再利用ではきたない、気持ち悪いというのがあるからだということである。B)に関してはほぼできるという回答だった。C)に関しては@では肯定的だったのに、実行は難しいのではないかという回答で、教授のアンケートとは違う結果になった。アンケートの中には、パークアンドライドに協力する人には電車料金を割引するなどのサービスが必要といった意見があった。D)については今後そういった技術を取り入れることは可能だろうとの回答だった。E)に関しては高層ビルやマンションが田舎にまで進出しつつあるし、一度建ったビルを壊すのは難しいというような回答だった。


6、考 察

今回行った教授と大学生へのアンケート結果では結構な差が出た。教授はドイツで行われている対策を日本で実行できれば効果はあるが、実際それを実行するのは難しいものがほとんどで、パークアンドライドだけがある程度できると答えてくれた。しかし、大学生にとったアンケートでは、パークアンドライドに対して一番否定的な意見が多く、その他の対策のほうが実行できるのではないかという逆の結果となった。このように結果に差が出たのは、教授は金銭面なども考慮したうえで一番実行しやすいという点で挙げてくれたのだろうが、大学生は純粋に実現されれば効果があるかどうかだけを考えて答えてくれたからこのような結果になったのだろう。そのように考えると大学生よりも教授の意見の方が信憑性は高いかもしれない。そこでA)〜E)の政策はドイツでどれぐらいの準備・費用などがかかるかをみてみたい。そのように考えると日本での有効性も見えてくるかもしれない。

・A) リユース方式について
今泉みね子著の『ここが違う、ドイツの環境政策』によると、リユース方式がドイツで普及したのは、環境税を導入したことが大いに関係があると書かれている。特定のビン類などにあらかじめビン代も含んだ値段で売り、それを捨てずに返却するとその分の代金が返ってくるデポジット制を導入したことがよい結果を生んだとされている。デポジット料などたいしたことがないと思うかもしれないが、日本円で約50円と結構高いので返却率も高いという。しかし、これを日本で行うと同じような結果になるかわからない。例えば、今自動販売機で売られている120円のジュースをビンにして170円でデポジットが50円とするとどうなるだろうか。大学生のアンケート結果ではやってみたいという回答が多かったが、ビンはいちいち返金してくれる場所に返しにいかなくてはいけないし、170円だと値上がりみたいで買いにくくなるだろう。そうなると飲料の売り上げにひびくので、企業の協力を得るのが難しいだろう。ドイツでは行政・市民・企業がそれぞれ環境に対する意識が高いから成功したが、日本でそのような考えが三者に受け入れられるのはそう簡単なことではないだろう。しかし、最近日本でも、サッカーJリーグの「ヴァンフォーレ甲府」のホームスタジアムではリユース方式をとっているらしく、比較的観客も協力的とのことである。このようにスポーツイベントの場でリユース方式をPR、浸透させる方法はドイツでも行われてきたことであるので、日本でもやれば効果が見込めるかもしれない。

・B) たい肥化
以前受講していた龍谷大学の「環境と人間A」の講義で、現在日本のゴミ処理の仕方はなんでも焼却で実に資源の無駄遣いをしているという話を聞いた。ドイツではたい肥化をさかんに行っており、たい肥化施設のほうが焼却施設よりも多いという。そして、たい肥化できないものだけが焼却され、さらにその熱を温水プールなどに利用するという。徹底した再利用で地球環境に有効であることは間違いないだろう。しかし、日本ではたい肥化施設がまだほとんどないので、作るところからはじめないといけないので、できれば将来的には有効だか今すぐは有効とは思えない。

・C) パークアンドライド
現在受講している「欧米の文化」の講義で、ドイツの町の中心地では車の締め出しがさかんにおこなわれているということを聞いた。どういうことかというと、中心地の駐車料金を異常な高さにして、その分電車などを利用してもらおうというわけである。これだけ聞いているとものすごく強引なやり方だと思うかもしれないが、もちろん工夫はしている。パークアンドライドに協力してくれる人には、車で中心地へ行くよりも駐車料金と電車料金を合わせても安いように設定している。また、「レギオカルテ」という環境定期券は他人に譲渡できるので、これをひとつだけ購入しておけばかなり安い料金で電車に乗ることができる。日本でも鉄道会社などの協力があれば他のものよりはやりやすいのではないだろうか。大学生にとったアンケートの意見でも、割引制度の導入があれば日本でもできるという答えがあったから、是非とも早く導入してほしい。

・D) 再生可能エネルギー
今泉みね子著の『ここが違う、ドイツの環境政策』などによれば、ドイツは風力発電が世界でもっとも盛んに行われているという。また、さまざまな建物の屋根(サッカースタジアムのような広い面積を持つ場所にまで)に太陽電池を取り付け、太陽熱発電も盛んに行われているという。自然エネルギーは無料かつ豊富に手に入れられるものなので、日本でも行えば有効だといえるだろう。「環境と人間A」の講義で聞いた話では、実際、草津では風車で風力発電を行っているらしく、それはドイツからコンピューターで遠隔操作をしているのだという。しかし、そういった設備を作っても、それにみあうほどの発電量と儲けは期待できないことから、日本ではまだ普及するのには時間がかかりそうである。

・E)自然素材
今泉みね子著の『ここが違う、ドイツの環境政策』によると、木や石、特に木を使うことは、断熱性に優れていて、床を高くする、ひさしを大きくとって雨よけをきちんとするなど構造が優れていれば、木造の家でも長持ちがするのだという。しかし、これに関しては前にも述べたとおり、高層ビルやマンションが田舎にまで進出しつつある現在の日本では実行はかなり難しいだろう。


7、まとめ

今回のアンケートの結果から、ドイツで行われている環境政策はドイツで有効、日本でも有効と言えそうで、こちらが最初に予想した結果と同じだった。しかし、日本でそれらを実行していくのはなかなか難しいようで、残念ながらこの予想も当たっていたようである。そしてそれには、ドイツ人と日本人の環境に対する意識の違いがあるからのようである。ドイツ人の祖先、ゲルマン民族は昔から「森の民」と呼ばれ、自然を大切にするという精神が今でもドイツ国民全体に根付いているという。また、ドイツでは緑の党という環境保護を旗印にした政党が与党になっているように、行政をはじめとして環境団体などが活発だから、ドイツ人は少々の金銭面での負担や生活に制約があっても環境を重視することができるのだという。しかし、日本人はそのようには考えず、国民は自分の経済発展・生活水準向上を第一に考え、また、行政も選挙などを考えて企業と癒着するという傾向が強いことから、ドイツで行われている環境対策を行おうとしてもどうしても消極的になるらしい。しかし今、環境問題は世界中で深刻な問題なのだから、これらの対策を少しでも取り入れるように、日本人ももう少し意識を変えていったほうがいいだろう。それには、ドイツでも行われているが、小さいころから環境教育をする、みぢかに環境について考えられるような施設を作っていくなど思い切った改革も必要だろう。


〈参考文献〉
  今泉みね子  『ドイツを変えた10人の環境パイオニア』 白水社 1997年
  今泉みね子  『ここが違う、ドイツの環境政策』 白水社 2003年
  平子義雄   『環境先進的社会とは何か ドイツの環境思想と環境政策を実例に』 世界思想社 2002年

最後に、このレポートを作成するために行ったアンケートに答えてくださった教授、友人たちにはこの場を借りて心から感謝したい。
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