「日韓の美容整形事情」
w040265 西口 美央
■はじめに

私は、年齢を重ねていくごとにだんだんと自分自身の容姿に気を使うようになり、美容に関するものに対する興味も持つようになった。普段読んでいる女性誌には、ダイエットや化粧、美容整形などさまざまな情報が載っている。その中でも私が特に興味を持ったのが「美容整形」であった。雑誌やテレビでは大抵、「変身前」「変身後」の姿が公開されていて、その変わりようには目を疑うこともあり、非常に目を引くものである。そして日本よりも美容整形が人気を集めている韓国にも注目するようになった。

ここ数年、「キレイ」という基準は急速に変化していて、多くの女性が美容というものにより強い関心を持ち、美しくなりたいと願っているように思える。多くの女性誌には必ずといっていいほど、何かしらの美容に関するページがある。健康や美しさがお金を出せば簡単に手に入るかのような情報がながれ、社会全体がその方向に進みつつある。その具体的な事例として「美容整形ブーム」が挙げられる。今日、日本とくに韓国などで「美容整形ブーム」と言われ、日本でも雑誌やテレビなどでよく取り上げられるようになった。そして最近では特集まで組まれるようにもなった。このように美容整形に関する書籍、情報、雑誌の増加から美容整形に興味がある人が増えているとも言える。韓国では、インターネットの2005年9月の日本語版朝鮮日報によると、1990年の時点で276人だった整形外科医は15年間で4割増の1102人に上った。また日本でも、厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、1998年の時点で400人だった美容外科医は6年間で715人と、数を増やしていっている。これら日韓両国の従事医師数の増加からでも美容整形に対する様々な形でのニーズの高まりを表しているといえるのでないだろうか。日韓の女性の美容整形への関心も少しずつ高まりつつあるように感じる。

まず、美容整形とはどのようなものなのだろうか。美容整形とは、美しくなるための外科手術のことで、形成外科の延長線上という考え方で生まれたものである。形成外科が失った機能を元の目的に修復、復元するための医療に対して、より美しさを追求してつくりかえることを目的として生まれたのが美容外科である。美容外科の発祥の起源はかなり古く、世界的にみれば形成外科的技術は紀元前6〜7世紀にはもうその原型があったといわれている。美容整形の原点とも言える形成外科の歴史は古く、16世紀にイタリアのボローニアでタリアコッチが決闘で失われた鼻の再建を上腕からの皮膚移植により鼻の形成に再度成功させたことに始まる。そして同時期にユダヤ人の整鼻術を行ったジャック・ジョセフは、ユダヤ人に対する人種偏見の解決方法を示したという評価を得ている。しかし、その後形成外科は長い冬眠を続けることになるが、第二次世界大戦をきっかけに再登場する。戦場では負傷者が多発し、その中には顔面外傷も含まれていた。そして第一次世界大戦後の欧米では医療分野の専門化、組織化が進み、そこで形成外科は医学の重要な分野として認知され、独立した。その後、形成外科は急速に発展を遂げ、その中には美容外科に注目し始めた医師も出てきた。欧米先進国では「より美しく」という要求に応える美容外科的手術の需要が徐々に高まり、美容外科が医療分野として確立していった。そして日本では1968年に美容外科が正式の診療科目として認められ、1977年には日本美容外科学会が創設され、韓国でも1985年に韓国美容外科学会が創設された。このようにして「美容」に対する関心が社会的に高まり、美容整形は自然発生的に普及したといわれている。

では、日本・韓国ともに人気のある美容整形であるが、日韓両国の女性にとって美容整形がどのようなものであるのだろうか。日韓両国の女性にアンケート調査を行い、美容整形に対する意識やとらえ方に違いはあるのか、またその違いはそれぞれの美意識にも関係があるのかを比較をして明らかにする。アンケートの対象は20代の日本人女性20人と、韓国人留学生と在日韓国人女性15人に答えてもらった。


■結 果

Q1. あなたは美容整形に抵抗感がありますか?

日本 韓国
ある 8 2
少しある 8 1
あまりない 3 4
ない 1 8

まず、「美容整形」に抵抗感がありますか?という質問をしたところ、日本人は、「抵抗がある」と感じる人が8人、「少しある」と感じる人も8人、「あまり抵抗がない」と感じる人が3人、「ない」と感じる人が1人と、20人中16人が美容整形に抵抗があるという結果となった。韓国人は、「抵抗がある」と感じた人が2人、「少しある」と感じる人が1人、「あまり抵抗がない」と感じる人が4人、「ない」と感じる人が8人と、15人中12人が美容整形に抵抗はないという結果となった。そして、韓国人の中で「抵抗がある」と答えた人は在日韓国人で、韓国人留学生はほとんど美容整形に抵抗感を持っておらず、在日であるかそうでないかでも美容整形に対する抵抗感に違いがでた。在日韓国人には日本人が持つ意識に似ている点があった。やはり、美容整形が日本でも受け入れられてきたとは言え、韓国よりは抵抗感が強いようだ。しかし、日本でも美容整形が流行っているため、16人も抵抗感を持っているのは少し予想外であった。

Q2. Q1で答えた理由は何ですか?

日本 韓国
抵抗感あり
(否定的)
・身体にメスを入れるのが怖い
・失敗されたら怖い
・急に変わると違和感がある
・バレるのが嫌 ・親に悪い…etc
・お金がかかる
・年をとってからが不安
・親に悪い
抵抗感なし
(肯定的)
・本人の自由
・美容整形に少し興味がある
・本人の自由
・整形した人が周りに多数いる
・整形で自信を持てるなら良いと思う
・キレイになることはいいこと…etc


次に、その理由を聞いてみた。日本人が抵抗感を持つ一番多かった理由は、身体にメスを入れること・失敗されることへの恐怖心であった。続いて、いきなり顔が変わると違和感があり周りにバレるのが嫌だから、親に悪いから、という結果となった。一方、抵抗感を持たない理由としては、本人の自由だと思う、美容整形に少し興味があるから、といったものであった。韓国人が抵抗感を持たない一番の理由は、本人の自由である、という答えで、続いて、整形をした人が周りにたくさんいるから、整形をすることで自信を持てるならいいと思う、キレイになることはいいことである、といった結果となった。抵抗感を持つ理由としては、お金がかかる、年をとってからが怖い、親に悪いから、といった結果となった。日本人は自分自身が美容整形をすることには抵抗があるが、他人が美容整形をすることには抵抗が薄れてきているように感じた。美容整形の安全性に強い疑問を持つ日本人に対して韓国人は美容整形への恐怖感や心配はあまりなく、美容整形にとても前向きである。それは、美容整形をした人が身近にいることも大きな原因だと思うが、日本人よりも美を積極的に追求する気持ちが強いからだろうと感じた。


Q3. 女性は何の目的で美容整形をすると思いますか?

日本 韓国
1.コンプレックスを克服するため 19 13
2.若さを保つため 11 6
3.男性からモテたいため 6 7
4.就職に有利であるため 0 3
5.結婚に有利であるため 1 3
6.その他 0 0

次に、美容整形する目的にどんな意識の違いがあるのか調べてみた。アンケートの結果、日本人と韓国人どちらも「コンプレックスを克服するため」という答えが圧倒的に多かった。日本では、これに続いて「若さを保つため」、「男性にモテたいため」、「結婚に有利であるため」といった順になった。韓国では、続いて、「男性にモテたいため」、「若さを保つため」、「就職・結婚に有利であるため」といった順になった。どちらも自分の悩みを解決 するため、自分に自信をつけるためといった、自分自身のために美容整形をする自己満足という意識は同じであった。ただ、韓国人の方が、日本人よりも自己満足とは別に就職や結婚といった美容整形によって得られる他の利益も求めていることがわかった。そしてさらに、自己満足することを最もな理由にしていても、「男性からモテたいため」といった他人から自分の存在を認められたい、実感したいという意識も日韓共通であるとわかった。美容整形をする目的の違いは、美容整形に対する意識にも影響を及ぼすように感じた。

Q4. あなたにとっての「美人の定義」は何ですか?
日本 韓国
・自分に自信を持っている人
・自分の考えをちゃんと持っている人
・目が大きい人
・性格がいい人
・印象や雰囲気がいい人
・よく笑う、笑顔が可愛い人…etc
・顔やスタイルが整っている人
・美しくなろうと努力している人
・肌がキレイな人
・美しい心を持っている人
・品があって女らしい人

最後に、美容整形への意識には自分の持つ美意識によって左右されるのではないかと思い、「あなたにとっての『美人の定義』は何ですか?」という質問をした。日本では、顔やスタイルが整っているだけでは美人とは見なされず、むしろ自分に自信を持っている、自分の考えをしっかり持っている、印象・雰囲気がいいといった、中身が特に重視されていた。それ以外に、よく笑うといった仕草や動作によるものも挙げられた。一方、韓国では、顔やスタイルが整っているなど見た目が美しいといった答えが一番多く、美しくなろうと努力している、肌がキレイ、性格がいいなどが挙げられた。この結果から、日本人と韓国人の美意識には違いがあることがわかる。韓国では日本よりも外見の美しさを求める人が多い。逆に日本では、外見の美しさも求められるものの、内面の美しさをより求める人が多かった。韓国では、完全なものに対する美意識が強いのに比べて、日本では不完全なもの・自然なものに対する美意識が強いように感じた。


■考 察

これらのアンケートから、日本人と韓国人とでは美容整形に対する意識に違いがあることがわかった。美容整形美容整形の体験者が自分の周りにいるかどうか、または美容整形が受け入れられているといった環境によって抵抗感は大きく左右されるだろう。それだけではなく、日本人、韓国人それぞれが持つ美意識の違いも大きく関わっているように思う。アンケートの結果でもわかるように、日本人は外見の美しさだけでなく、生まれ持った自然な美を尊重する意識が強い。現代の日本では、規範的な美人の枠を逸脱していても、自己主張ができる、といったように女性に対する価値観が多様化しているように感じる。それに対して韓国人は外見の美しさと内面の美しさの両方かね合わせた美を尊重する。したがって、外見あっての美しさを要求する韓国人は、日本人よりも美容整形を一つのキレイになる手段として肯定的に受け入れる傾向が強いのだと思った。

そしてアンケートの二つ目の質問では、日本人は美容整形の安全性に一番抵抗感があるという結果が出た。手術といっても人間の業であり、もちろん失敗や危険は皆無とは言えない。美容整形が大きく取り上げられるとともに医療ミスの問題も生じてきているし、誰しもが「思い描いていた美人」になれるわけではない。しかし、もし美容整形に絶対の安全性が保証されていたなら、美容整形をする日本人女性はきっと増加すると考えられる。これは韓国人女性にも言える。

また、日韓の比較をしていくうちに韓国の中でも韓国人留学生と在日韓国人とでは違いがあることがわかった。韓国人留学生より在日韓国人の方が美容整形に対する抵抗感は大きく、日本に滞在している期間に比例して、より日本人と似た意識を持っていっているようだ。ここからでも、自分のいる環境も大きく影響してくると感じた。

今、美容整形は現代の女性から大きな注目を浴びている。今人気の美容整形がこれからも注目を浴び続けるのか、日韓以外の国でも「美容整形ブーム」を起こすのか、それとも人気がなくなる時が来るのか・・・美容整形、それに対する現代女性の意識がどのように変わっていくのかこれからも注目していきたいと思う。


■参考文献:
 ・「美容外科の真実」  塩谷信幸 2000年 講談社
 ・「美容外科でキレイになる人なれない人」  大森喜太郎 2002年 芳賀書店
 ・「プラスティックビューティー 美容外科の文化史」 エリザベスハイケン 1999年 平凡社 


■参考URL:
 ・厚生労働省統計情報部 http://www.mhlw.go.jp/houdou/bukyoku/toukei.html
 ・朝鮮日報 http://japanese.chosun.com/