
「われわれの今日とわれわれの昨日や一昨日とのあいだのすべての橋は、壊されてしまったのだ。」
「昨日までまだ不可能であったことが、ほとんど日に日に可能とされてゆく。」
シュテファン・ツヴァイク『昨日の世界』(訳:原田義人)みすず書房、1973年
19世紀末のウィーンで生まれたユダヤ系の作家シュテファン・ツヴァイクは、二度目の世界大戦の勃発を前に、自身の人生とヨーロッパにおける安定の時代の回想録を書き始めました(1942年、亡命先のブラジルで執筆を終えた後に、彼は自らの命を絶ちます)。そのなかでツヴァイクは、わずか数十年前の、「今日」とはまったく異なる『昨日の世界』を書き残そうとしました。
21世紀が始まり四半世紀を過ぎた現在にとって、20世紀末の世界でさえ、ツヴァイクの述べる「昨日の世界」であるかのように感じられます。情報技術の革新とそれによる利便性の劇的な向上、国内外の政治・社会状況の変化と言論空間の変質、新たな紛争・対立の勃発、国際秩序の転換の兆しなどは、わずか数十年のあいだに生じたものです。他方で、「昨日の世界」においても頻発していた民族間紛争や資源・領土をめぐる衝突は、形態や規模を変えながらも、いまだ解消されていません。
2019年度に創設された国際学研究科は、今日の世界におけるさまざまなイシューに対して、既存の学問領域にとどまらず、より多角的・多面的かつ複眼的に考察することを目的としています。国際関係論、文化人類学、言語学、比較文化学などを含む複数の領域を横断する研究の場を提供し、変容する国際社会が直面する諸問題に対して、地に足をつけながらも新たな視座からアプローチできる研究環境を整えています。
大学院生にとって、研究科での学修は多くの喜びとともに困難も伴うでしょう。院生と教員が共に切磋琢磨し、刺激し合いながら知を蓄積し、学問を深めていく。そのような、発展し続ける研究科でありたいと考えています。
龍谷大学大学院国際学研究科長
瀧口 順也